リョモさんだって、嫉妬する。

「本人に直接言えば良かろう、俺にばかり愚痴ってないで。」
うっかり音になってしまったそれが、きっと陸遜を傷つけた。
始まりは些細な事だ。いつも通り約束した俺と陸遜は、いつも通り二人で食事をした。あまり口にする方ではないけれどそれでも、俺だって楽しみにしていたのだ。
拙宅に呼べば、陸遜は相変わらず律儀に、真面目すぎるほどきっちりと正座して、飯を食べてくれた。だがその最中に出るのは、甘寧の話ばかりだ。甘寧が如何に話を聞かないか、如何に無茶をするか。この間は凌統殿と喧嘩して殿に怒られるし、私と凌統殿が楽しく話をしていると決まって邪魔する。
他愛のない話だと思う。俺は甘寧の事も好きだし、陸遜がそうやって周りの人間を気にかけるようになったのは、きっと良い事なのだ。分かっている、十二分に。だから、決して甘寧の話をする陸遜に苛立ったわけでも、甘寧に嫉妬したわけでもない。
嫉妬したのは、『陸遜を怒らせる事が出来る』甘寧だ。
陸遜は俺に対しては怒らない。愚痴や我侭だって、殆ど聞いた事がない。たまさか、陸遜が我侭だと『主張する』おねだりがその口から漏れたりするが、それだって、そう考えても俺を喜ばせているとしか思えないものだ。いつだって、いつだって、俺には一線をひいたような感情しか与えぬというのに、何故甘寧だけには、そんな風に怒ったり憤ったりする?俺はそんなに、お前に緊張をしいているのか。勝手な感情だと理解しながらも、俺は苛立ちを隠せないでいた。
あけすけに言うのなら、羨ましかったのだ、甘寧が。
だから、口についた。
「っ・・・も、申し訳ありません・・・私・・・詮もないない事を・・・。」
だからどうして、そこで言葉を詰まらせる?どうしてそこで謝るのだ。愚痴を聞かせろと散々言ったのはあなたですのに、と俺を責めればよいだろう。
「・・・。」
「呂蒙殿、怒らないで下さい・・・後生ですから、だから・・・。」
「・・・・・・俺はそんなに恐ろしいか。文句一つも言えない位に。」
え?と問い返す陸遜の、そのあどけない瞳が愛しい。だがこの瞳の、もっとも熱い感情を向けられるのは俺ではない。俺ではなくて、甘寧なのだ。それがたまらなく・・・悔しい。
「甘寧の愚痴は言えても、俺に文句は言えないか。」
「言えません!」
叫ぶような声で、陸遜は俺の心を砕いてゆく。
「だって・・・だって呂蒙殿には・・・その、何の不満もありませんから・・・怒る所が、ないんです・・・。」
「陸遜?」
「甘寧殿には怒る所がたくさんあって・・・でも呂蒙殿には、何の欠点もないから・・・だから文句なんて、言える筈なくて・・・。」
見る見る内に、その頬が赤く染まってゆく。
俺は美点を多く持った人間ではない。特に陸遜のような人間から見れば、寧ろ欠点の方が多かろう。それなのに、考えられないような賛辞を捧げられて、俺は正直戸惑ってしまう。
「でも・・・申し訳ありません・・・人の、しかも御戦友である甘寧殿の愚痴を聞かされては・・・呂蒙殿だって、お楽しい筈がありませんのに・・・。」
「・・・陸遜。」
くだらない嫉妬心が、お前を悲しませたのだと、そう謝る事はさすがに29歳には難しくて。くだらない意地など捨ててしまえばいいと思うが、なかなか上手くはいかない。その代わりに、陸遜の細い肩を抱き寄せた。
「仕事を離れた時位、俺だけを考えろと言ってしまうのは、軍師失格か?」
「そ、そんな事・・・っ。あ、あの・・・その、嬉しい、です・・・でも私は・・・任から離れた時はいつも呂蒙殿の事を・・・だから・・・これ以上考えてると・・・な、何も手につかなくなりそうで・・・。」
恐ろしいのです、と言いかけた唇をすかさず奪った。腕の中で、とろけるように俺に体重を預けてくる若き俊英を、さて、どうやって子供に戻そうかと考える。
だしにしてしまった甘寧に、心の中でわびながら。
